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神戸地方裁判所姫路支部 昭和37年(ワ)14号 判決 1962年5月21日

原告 中山定夫

被告 清川政一

主文

被告は原告に対し金六万八千四拾壱円及びこれに対する昭和三〇年六月一八日以降右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金弐万円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。

事実

被告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、訴外山名商事有限会社は被告に対しその所有にかかる神戸市垂水区岩岡町古郷字白古瀬一八四〇番の三地上家屋番号二一五番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一一坪七合三勺及び木造瓦葺平屋建物置一棟建坪一一坪三合三勺に対し抵当権の設定を受けて昭和二九年八月一四日貸付けた証書面金一七万円の債権につき神戸地方裁判所明石支部に対し、右抵当権実行の競売申立をなしたので、同裁判所は同裁判所昭和二九年(ケ)第一六号不動産競売事件としてこれが競売開始決定をなし、手続を実施した結果原告は昭和三〇年五月二三日本件家屋を代金一〇八、四〇〇円にて競落し、許可決定を受け代金を完納し、同年六月二四日神戸地方法務局明石支局受付第四六二九号を以て原告名義に所有権移転登記手続が為された。

而してこれより先右競落代金については右競売裁判所において同年六月一七日午前十時の配当期日に訴外会社に対しては金四〇、三五九円(内金八、四三八円は手続の費用)を、被告に対しては金六八、〇四一円を夫々配当交付した。

二、ところが被告は右競売は既に弁済によつて消滅した債権に基いてなされたものであり、原告は本件家屋の所有権を取得できない筈であるとして、本件原告を相手方として原告の右所有権取得登記抹消手続請求の訴を神戸地方裁判所明石支部に提起し、第一審は請求棄却の判決があつたが、被告において控訴の結果、控訴審である大阪高等裁判所において昭和三六年六月二四日原判決が取消され、被告の請求は認容せられ、本件家屋についての原告の競落による所有権移転登記を抹消せよとの判決言渡があり、該判決は確定した。

三、右のとおりで競売事件の抵当債権は消滅していたのに、事情を知らない原告はこれを競落し、代金一〇八、四〇〇円を完納したので右金員及びこれに対する配当期日の翌日たる昭和三〇年六月一八日以降右金員の返還を受けるまで民法所定の年五分の損害を蒙ることになつたが、他方被告は前記の如く競売裁判所の為した競落代金配当により金六八、〇四一円の配当を受け、右金員及びこれに対する配当日の翌日たる昭和三〇年六月一八日から右金員返還までの民法所定の年五分の割合による金員を原因なくして利得しているのでこれが返還を求めるものである。

四、仮りに被告において現実に競売裁判所に対し保管金の払渡を受けなかつたとしても、昭和三〇年六月一七日神戸地方裁判所明石支部において競売代金残額六八、〇四一円を交付する旨の決定が為されたのであるから、被告は同金額を取得したものというべきである。

と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、

一、原告主張の第一項の事実は被告において金六八、〇四一円の配当交付を受けたとの点を除きこれを認める。被告は右競売は当初から無効であると確信しておつたので右の如き配当金を受領したことはない。

二、原告主張の第二項の事実はこれを認めるが、同第三項の事実はこれを争う。

三、本訴の原因たる神戸地方裁判所明石支部昭和二九年(ケ)第一六号不動産競売事件においてなされた競売競落がその基本たる債権の消滅によつて無効であること並に該競売競落の手続が訴外山名商事有限会社の消滅せる債権を現存せるものとなす失当なる申立によつてなされたことは大阪高等裁判所が認定するところであつて、且つその判決が既に確定せることも原告の主張するとおりである。

四、固より前記債権の消滅、競売競落の無効を主張する被告がその競落代金の一部の配当を受くべき理由なく又受領すべき義務のないことも当然である。要するに被告は配当金の交付を受けていないので不当利得は存在しない。

と述べ、甲第一、二号証の成立を認めた。

当裁判所は職権で被告本人を尋問した。

理由

原告主張の第一、二項の事実は被告において原告主張の日時に競売残代金(剰余金)六八、〇四一円の交付を受けたか否かの点を除き当事者間に争がない。従つて原告は他に反証がないので、本件競売の有効なることを信じて支払つた競落代金一〇八、四〇〇円の損失を蒙つたことは明かであり、又他に反証のない限り右金員につき配当金交付日の翌日たる昭和三〇年六月一八日以降その返還を受けるまで民法所定の年五分の割合による損失を受けているものと推定するを相当とし、右推定を覆す証拠はない。

而して成立につき争のない甲第一号証(配当期日調書)によれば売得金残額六八、〇四一円を被告に交付と記載あるも、被告は当日出頭しなかつたことも、記載されておるし、右事実に成立につき争のない甲第二号証(判決)被告本人尋問の結果竝に弁論の全趣旨を綜合して考察すれば、被告は訴外山名商事有限会社の本件不動産に対する抵当権実行のための競売手続中同訴外人と示談して金一六三、〇〇〇円を支払うことにより抵当債務を消滅せしめたので、当然競売手続は取消されるべきものと信じていたのであるが、他面右訴外人において、右金員は一部支払に過ぎないものとして引続き競売手続を続行していたので、右示談金支払後も競売裁判所から数回競売期日の通知を受け、更らに代金交付期日(配当期日)の通知をも受けていたものとみられるにも拘らずこれを放置し、原告に対しては競落による所有権取得登記がなされた後にこれが抹消登記手続を訴求したが、遂に競売裁判所に対しては競売残代金(剰余金)の交付を求めず、同裁判所において保管金規則による時効(五年)完成したものとして国の歳入に編入の手続をしたことが認められる。

被告本人尋問の結果によつては右認定を動かすに足らないし、他に右認定を動かす証拠はない。

思うに、抵当不動産の競売残代金(剰余金)は抵当不動産の元の所有者に帰属すべきものであるが、競落人は競売法(及びその準用する民事訴訟法)によつて代金を競売裁判所に支払い、競売裁判所はこれを保管し、保管金のうちからこれを元の所有者に交付する手続をなすものである。被告は前記認定の如く代金交付期日の通知を受けていたのであるから、交付期日の昭和三〇年六月一七日に競売裁判所に出頭しなかつたとはいえ、競売裁判所に対し同日剰余金六八、〇四一円の交付請求権を取得したものというべく、而も被告は本件競売手続が無効であることを知つていたのであるから悪意で右債権を不当に利得したものというべきである。従つて被告は前記認定の如く右剰余金の支払を受け得られなくなつたのではあるが、原告に対しては悪意の受益者として民法第七〇四条により右債権相当額たる金六八、〇四一円に右債権取得の日の翌日たる昭和三〇年六月一八日以降右支払済に至るまで民法所定の年五分の利息を附して返還する義務がある。

この点に関する被告主張の見解は採用できない。

してみれば、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 庄田秀麿)

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